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7.ロシアのChanneled Scablandと立山 Ice Cap 説

Bakerら(1993: Science, 259),Baker(1997: Late Glacial andPostglacia l Environmental Changes),Grosswald(1999: Scientific World, 120pp, 露語),Rudoy(2002: QI, 87)などが,アルタイ山脈やカラ海付近のシベリアにScablandに似た地形が存在していることを報告している.火星のScablandが1970年代にすでに報告されているのにくらべて,シベリアがわが地球であるにもかかわらず,その報告が最近であるのは,いかにもロシア,といった感じがする.

Grosswald氏の主張では,彼が“Circum-Arctic ice sheets”とよぶ海底着氷型氷床が北極海を囲む地域に発達し,それらの堰止めによって形成された湖水が南部へ流出し,さらに氷床の融解期には,北極海の水までもが南へ排出されてカスピ海や大西洋にまで到達して,その過程でScablandが形成されたという(Grosswald, 2002, QSR, 22).

ところで,「世界の古代型遺存湖底深層掘削の国際共同研究に関する立案と検討No.12」, IPPCCE Newsletter No.12 (1999) という報告書に,“Large-scale global change in Japan (as revealed by glaciohydrological evidence)”というGrosswald氏の論文がある.この論文でGrosswald氏は,立山カルデラ付近を覆うアイスキャップが存在したと提唱し,弥陀が原の溶岩台地にみられるガリー状のチャンネルの存在を彼の説の根拠に挙げている.Ice Capの被圧によって氷底融解水が底からすくい上げられ,その水流が溶岩台地上のチャンネルを形成したのだという.

確かに,弥陀が原の溶岩台地をはじめ,その下流の“称名の滝”や“悪城の壁”の景観はScablandのCouleeに似ている.しかし,ことさら氷底水流や洪水を仮定しなくとも,北陸独特の大量の積雪によって潤沢に融雪水が供給されているので,立山では水源は問題にならない.むしろ水流さえあれば,ScablandやCoulee状の地形は,溶岩台地に特有の侵食形態として共通に見られるものだと考えたほうが妥当であろう.こう書くと,漸進的斉一主義から抜けきれていない,と非難されそうではあるが...

この話題は,一時,低温研氷河グループのWeb掲示板や寒冷地形談話会のMLでも話題になった.その時私は,冗談半分で立山 Ice Cap の復元図を作ったりしたものだが,今から思えば,Grosswald氏の弥陀ケ原の解釈には,Columbia Plateauの溶岩台地に形成されたChanneled Scablandが念頭にあったのではないかとも考えられる.掲示板には,1997年に,前出のBaker氏や小松氏の所属するアリゾナ大に滞在していた東大の小口氏が,同時期にアリゾナ大を訪問していたGrosswaldと会って議論したことが書かれていて,私のこの推測を裏づけている.

その後,この論文に関する日本の氷河研究者間の個人的なやりとりが発端になって,2000年春の日本地理学会学術大会で「日本列島の氷河地形の問題点をさぐる」というシンポジウムが開催されたり,氷河作用研究グループの発足につながったりしたという経緯もある.

また,北海道大雪山には,火砕流や溶岩流によって石狩川がせき止められて古大雪湖が形成されていた時期がある.みごとな柱状節理の壁が連なる層雲峡の深い谷は,古大雪湖からの流水よって削り込まれた地形であると考えられており,Scablandの日本版ミニチュアということもできる.大雪山の氷河作用に関連して,明治大学の長谷川氏らは,石狩川の源流域にvarv状の堆積物を記載しており,氷河と氷河湖の存在の可能性を指摘している.これらの関連においても,日本の氷河研究にとって,Scablandはまんざら無縁ではない,といえるのではないだろうか.

Grosswald氏が提唱する“Circum-Arctic ice sheets”や“立山 Ice Cap 説”には否定的な意見が多いが,シベリアのScablandの報告は注目に値する.また“Circum-Arctic ice sheets”の一部としてオホーツク海北部にも海底着氷型氷床を想定しており,Grosswald氏の主張は日本の氷期気候変動の復元に関しても無関係ではない.日本の研究者としても,いずれはまともに対応しなければならない課題であろう.北大・低温科学研究所では,“オホーツク海と周辺陸域における大気−海洋−雪氷圏相互作用”と題した集中的なCOEプロジェクト研究や“オホーツク海氷の実態と気候システムにおける役割の解明”と題した戦略的基礎研究などの一連の研究プロジェクトが一段落ついたところであり,今後の成果の発表が期待される.

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